海外住み女の頭の中

好きなヒト・コト・モノだけを自分のために書く

テレビの向こう側の人

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2006年、バンコクタイ語の語学学校に通っていたときの話。


住んでいたアパートの同じ階に住むタイ人の友達、ゴンは日系の旅行会社のガイドとして働いていた。


ゴンは敬虔な仏教徒で、私が蚊を殺すことも良しとしないような人だった。



ある日、ゴンが言った。


「日本の芸能人2人が今回のツアーのお客さん。
〇〇と〇〇っていう人知ってる?
 夜バーに行くから一緒に来なよ」


日本のお茶の間でも人気の芸能人だった。


私は

「いやいや。私はただの一般人だよ。
 そこに行けるわけないじゃん」

と返した。


それでもゴンは言った。


「人間に上も下もないよ。
 みんなただの人間なんだよ」


おお。
ゴンは達観してるなと思いつつ、

「いやでもこれ仕事なんでしょ?
 私みたいな学生が行っても場違いというか...」

何度か断った。


それでもゴンは強引に誘った。

「関係ないよ。全然問題ないから。
 とにかく来てね」


マイペンライマイペンライ(大丈夫、大丈夫)
と繰り返し言われ、結局バーに行くことになった。



バーに着いてからの記憶はあまりない。

彼らが有名人だからといって騒ぐことも緊張することもなかった。


彼らの仕事の打ち合わせになぜか学生の私が潜り込んでいるという不思議な光景だった。


「なんで私ここにいるんだろう」

と客観的に見て思った。


ドリンクを飲み終え、もう充分だと思い、
挨拶して店を出ようとした。


そこで初めて芸能人の一人に

「あなた、タイで何してるの?」

と聞かれ、


タイ語を学んでいる学生です」

と伝えた。


すると

「私も頑張るからあなたも頑張ってね!」

と元気よく握手されて終わった。


ただそれだけだった。

ゴンの言うとおり、普通の人間だった。


なるほどなあ、と思った。



今でもゴンの

「みんなただの人間なんだよ」

という言葉を、ときどき思い出す。



テレビの向こう側の人を必要以上に神格化したり、雲の上の人と勘違いしている人は、多分日本に多いのだろうと思う。


インターネットが普及したとはいえ、
テレビを絶対視する人も決して少なくなさそうだ。


かつての私がそうだったように。


テレビは創られた虚構の世界。



有名人であっても、著名人であっても、
自分と同じただの人間。


上も下もないのだ。

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